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Russian security forces stand in front of the concert hall in a suburb of Moscow where the recent terror attack occurred. (© Tass/Kyodo)
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ロシアのプーチン政権は非道なウクライナ侵略を続けているが、そうだとしてもロシアの市民を無差別に殺傷するテロは決して許されない。
首都モスクワ郊外のコンサート施設に乱入した数人の武装グループが観客に向けて銃を乱射し、火災も発生して137人が死亡した。
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が「多くのキリスト教徒が集まった場所を攻撃し、数百人を殺傷した」と犯行声明を出した。
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実行犯4人を含む11人を拘束したというが、プーチン露大統領が「圧勝」で5選を決めた、その週末の大惨事だ。「国の守りと社会の安定化」を公約に掲げたプーチン氏の威信を失墜させる屈辱的な事件となった。
プーチン政権にはテロ対策で明白な失態もあった。3月上旬、米政府がモスクワでのテロ攻撃計画に関する情報を露当局に伝えていたが、プーチン氏は「あからさまな脅迫だ」として真剣に取り合わなかった。
テロリストは会場の警備網を難なく潜(くぐ)り抜けた。テロを鎮圧する特殊部隊の現場到着は事件発生から約1時間半も後で、惨劇を拡大させてしまった。
プーチン氏はテレビ演説で何の根拠も示さず「実行犯4人とウクライナ側の間に、国境を越えるための窓口が用意されていた」と述べた。失態への批判をそらし、ウクライナが事件に関与しているかのように憎悪を煽(あお)り立てた卑劣な発言だ。
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ISは10年前、シリア内戦など中東の混乱に乗じて「国家樹立」を宣言した。プーチン政権は、ISに敵対するシリアのアサド政権を軍事支援し、恨みを買ってきた。
ISは米軍などの軍事作戦で弱体化していたが、今回のテロはプーチン政権が隣国侵略に軍事・治安部隊を集中させている隙を突いたといえる。
ウクライナで戦うロシア軍には、ロシア・カフカス地方のイスラム教徒が多い地域からの動員が目立つ。不満を募らせるイスラム系住民を支援する過激派の浸透も指摘されていた。
プーチン政権は、「ウクライナ」と「テロ」の二正面作戦を迫られることになった。ウクライナ侵略を直ちに中止して全面撤退しない限り、十分なテロ対策を講じることはできないと気付くべきだ。
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2024年3月26日付産経新聞【主張】を転載しています